誤嚥事故と損害賠償

お客様の声・解決事例

経過を見て119番に通報

今回は、最近の裁判例の中から、老人ホームの入居者の誤嚥死亡事故について、特別養護老人ホームの介護職員とその経営法人の損害賠償責任が認められた事例を紹介しながら、予防という観点から、お話ししたいと思います。

満97歳を迎えたX子さんは、社会福祉法人Yが経営する特別養護老人ホームAに入所していました。当日は、月に一度の昼食に出前を取る日であり、X子さんは、玉子丼を選びました。X子さんは、食事中、かまぼこ片等を誤嚥し、窒息の状態に陥ったのです。

食事中X子さんが口から泡を出していたことに気がついた介護職員が吸引の処置をし(1回目の急変)、その後、再びX子さんが口から泡を出し、チアノーゼが見られ(2回目の急変)、介護職員らが対処したところ、X子さんはかまぼこ片1つを吐き出し、顔色に赤みを帯びてきたので、経過をみることとなりました。しかし、さらにその後、X子さんが顔面蒼白でぐったりとなったため、午後1時5分ころ、119番通報をして救急車の出動を要請し、午後1時33分ころ、X子さんが以前入院していたB病院に搬送されたのでした。

X子さんは、約1年後、B病院で死亡しました。吐物誤嚥による窒息死ではなく、直接の死因は老衰であるとされています。

X子さんの相続人のうち2人の子X1さんとX2さんが、X子さんが食物を誤嚥し、窒息によって意識レベルを低下させ、死期が早められたと主張して、Y法人に対し、損害賠償金としてそれぞれに880万円ずつ支払うことを求めたのです。

安全配慮義務違反

裁判所は、まず、「Y法人は、X子さんに対して、契約上、介護補償対象サービスとして、入浴、排泄、食事等の介護等を提供するとともに、サービスの提供に当たって、契約者であるX子さんの生命、身体、財産の安全・確保に配慮する義務を負い、また、X子さんの体調・健康状態からみて必要な場合には、医師又は看護職員と連携し、X子さんからの聴取・確認の上でサービスを実施すべき義務を負っていたものと認められる」と判断しています。この義務は、「安全配慮義務」と呼ばれており、介護利用契約の付随義務として説明されています。
そして、裁判所は、次のように判断して、Y法人に対して総額約292万円余の支払いを命じました。

「Y法人の従業員であるA老人ホームの介護職員らは、X子さんに対し、X子さんが1回目の急変の際に口から泡を出しており、食物の誤嚥が疑われたため吸引の処置を施した結果、容態が安定したように見えたとしても、引き続きX子さんの状態を観察し、再度容態が急変した場合には、直ちに医療の専門家である嘱託医等に連絡して適切な処置を施すよう求めたり、あるいは119番通報して救急車の出動を要請すべき義務を負っていたと認めるのが相当である」とし、このようなことをしなかった介護職員らに、この義務に違反した過失があり不法行為責任を負うとし、Y法人は、この不法行為について使用者責任を負うと判断したのです。

証明できない事実はなかったものとして扱う

この裁判例に接して思い起こすことは、誰もが同じでしょう。
介護施設は医療機関ではない以上、専門的な医療設備を備えてはいませんし、介護職員らは医療に関する専門的な技術や知識を有しておらず、入居者の生命、身体の安全・確保に関わる事態に遭遇した場合、的確な判断をすることにはおのずと限界があるのは当然のことであり、介護施設の役割は、状況に合った専門家の適切な処置を受けることができるようにすることにほかなりません。そして、実際にこのような場面に直面した場合、時宜に適った適切な判断と対処を可能とするためには、介護施設として組織体制が整備されていると共に、個々の介護職員が一定レベルの能力を備えていることが不可欠であり、研修を実施していくなどのことが必要であることはいうまでもありません。

結局のところ、介護施設における介護事故のリスクマネジメントは、施設が、福祉サービスの充実を図っていくこと以外にあり得ないといわなければなりません。介護事故の発生を恐れ、誤嚥事故を回避するために、安易に経管栄養に移行したり、転倒事故を減らすために、緩やかに身体的拘束を行うことは本末転倒であるというほかありません。

そして、福祉サービスの充実という観点から、介護事故との関係で何をすべきかを具体的に把握するため、介護事故に裁判例を研究することは有益です。

しかし、実はここに盲点があります。
裁判は、事後客観的に判断されるのですが、その場合、認定された事実がすべて明確に再現されたわけではありません。むしろ、裁判官の事実認定は、いくつものピースが欠けているジグソーパズルを完成させる作業に似ています。勝敗を左右する決定的な重要事実があったとしても、訴訟上証明できないということになれば、その事実はなかったものとして扱われることになります。

しかも、客観的判断といっても、裁判官の推理はもとより、主観的判断、そして、価値観さえも入り込まざる得ないプロセスです。しかも、事後的判断である以上、必ず、後付け部分が介入します。その時その場にいれば、そうするのが難しいことであっても、本来はできたはずだと義務を定立することも可能です。特に、権利意識の高揚が見られ、これが社会的に支持されている分野では、裁判官にも一定の使命感が働くことは否定できません。また、介護・看護態勢が介護保険指定の配置基準を満たしていないような場合、直接事故と結びつかない場合であっても、裁判官の判断に影響がないとは言い切れません。

なお、本件でも、裁判所は、「2回目の急変後、X子さんは意識があり、高度の脳障害にまでは陥っていないことがうかがわれ、1回目ないし2回目の急変時に救急隊員が到着していれば、X子さんの意識障害の程度を軽減できた可能性が認められないわけではない」(傍点は筆者)と説示されています。

多くの介護施設では、顧問弁護士がおられるのが通例と思われます。裁判例を研究するには、やはり見方というものがあり、気心知れた顧問弁護士の指導を受けながら行うことをお勧めします。

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